17歳のとき、父が亡くなりました。
まだ47歳という若さでした。
葬儀には、900人以上の方が参列してくださいました。
その人数に、ただただ驚いたのを覚えています。
「この人は、本当に多くの人から慕われていたんだ」
目の前に広がる人の波を見ながら、そんなことを思いました。
でも──
そんな父のことを、僕は正直、大嫌いでした。
理由はただひとつ。
父は、いつも“人にばかり”優しくして、 自分自身や家族に対しては、いつも後回しだったから。
外では「素晴らしい人」と言われていた父。
けれど、家ではどこか遠い存在で、 反抗期だった僕は、父を無視し、ひどい言葉をぶつけることもありました。
今思えば、まったく“いい子”ではなかったと思います。
でも不思議なことに、 あの頃の父と、自分の姿がどこか重なることがあります。
家の中では不機嫌で、外では“いい人”。
周りに気を遣いすぎて、自分の気持ちは後回し。
「父みたいにはなりたくない」と思っていたはずなのに、 僕もまた、同じような生き方をしていたのです。
大人になるとは、 もしかすると「自分の中にある父親と和解すること」なのかもしれません。
父は、たしかに誰からも好かれる人でした。
そして、きっと、家族のことも大切に思っていたのでしょう。
ただ、不器用で、自分の気持ちを上手に出せなかっただけ。
それに気づけたのは、大人になってからでした。
今、カウンセラーとして多くの方と向き合う中で、 「自分を後回しにしてきた人」の言葉を、何度も聞いてきました。
「家族のために頑張ってきた」
「誰かを守るために我慢してきた」
「本当は泣きたかったけど、泣けなかった」
そのたびに、ふと思い出すのです。
あの葬儀の日の、あの光景を。
無理して、我慢して、頑張りすぎたその先で、 自分自身が壊れてしまうこともある。
だからこそ、声を大にして伝えたいのです。
自分を大切にしてください。
無理をしすぎないでください。
あなた自身が、あなたの人生の中で一番大切な存在なのです。
誰かを大切にすることと、 自分を大切にすることは、矛盾しません。
むしろ、自分を大切にできる人こそが、 本当に誰かを大切にできるのだと思います。
父の死から、もうすぐ30年。
僕は今年、父が亡くなったときと同じ47歳になります。
ようやく今、父に心から言えます。
「あなたの生き方も、ちゃんと見てたよ」って。